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2010年6月24日 (木)

記者の目:発達障害がある人の犯罪と矯正 野沢和弘(毎日新聞)

 なんとも不可解に思える事件で検挙された人に発達障害があったとき、刑事手続きのあり方やメディアの報道をめぐってよく論議になる。その問題を考えてみたい。

 見ず知らずの女性を刺殺した高校生が「人を殺す経験をしてみたかった」と供述して騒然となったのは10年前のこと。高校生は発達障害の一つであるアスペルガー症候群と診断された。脳に何らかの原因がある先天的な障害でコミュニケーションや相手に共感することが苦手なため、悪意はなくても相手の感情を逆なですることがある。

 7年前、4歳児が裸で立体駐車場から発達障害ありとされた少年に突き落とされた事件では、地元新聞各紙が3日連続1面トップで障害名を報じ、障害者の家族や支援者からマスコミ批判が起きた。

 そのころから報道は変わった。自宅に放火して家族を死なせたり、母親に毒物を盛って衰弱していく様子を観察したり、若い姉妹を惨殺したり……。これらの事件でも容疑者に発達障害があると診断されたが、障害名が大きく報道されることはなかった。

 今年3月、触法障害者の矯正について英国を取材した。二つの保安病院を視察し、研究者や英国自閉症協会のスタッフに会った。殺人など重要事件を起こした障害者が収容されている高度保安病院では、患者1人に年間4000万円の予算が費やされている。再犯のリスクが低減して地域生活に戻ると、後見命令によって6~12人のスタッフが24時間態勢で見守り支援をするという。これらは本紙くらしナビ面「障害者の『罪と罰』~イギリスからの報告」(3~4月掲載)で紹介した。
 ◇議論が政策生む

 悪意や反省という概念が私たちのようには成り立たない障害特性への理解、彼らの矯正に多額の公費をかけることを許容する世論にメディアがどう関与しているのか、私は知りたかった。そこでいきなり冷水を浴びせられたのは著名な自閉症研究者のパトリシア・ハウリン教授の言葉だ。「猟奇的な犯罪はメディアをひきつけ、アスペルガー症候群の人はみんな事件を起こすかのように報道する。10年前から少しも変わらない。ニュース性がなくなるとすぐに忘れ、フォローもしない」

 その後も弁護士や医師など会う人ごとにメディア批判を聞かされた。彼らにとってマスコミは敵であり憎悪の対象だった。実際、英国に滞在していた8日間、過去に重要事件を犯した人物の現況を報じるセンセーショナルな新聞記事を何度も見た。加害者の子どものころの写真を大きく載せた新聞もあった。

 他方、当事者団体やNPOが障害者の権利擁護や刑務所改革に取り組んでいた。政治家や省庁と協議の場を定期的に持ち、テレビやラジオで主張をアピールし、マスコミもそうした活動を報道する。むき出しの主張や思想が激しくぶつかり合い、議論のしぶきが政策決定の場にも飛んでいることを実感させられた。
 ◇刑罰でなくケア

 英国に比べ日本のマスコミはまだ抑制が利いていると思う。当事者団体やNPOの取り組みも弱いので、この問題が政治課題として注目されることもなく、予算も付かない。批判されなければマスコミは安心だし当事者団体も楽だが、被害者への同情が膨張する裏側に、「ゆがんだ障害者観」が張り付き、いつか偏見が腐臭を放つことになりはしないか。センセーショナルな報道には反対だが、批判を恐れて書かないことは問題を潜在化させるだけだ。

 権力や巨悪をナタで切るようには料理できない繊細で複雑な取材対象があるのに、私たちはその重要性を十分認識していないのではないか。テーマに合った取材手法や報道のあり方はもっと研究されていい。触法発達障害者の問題は、多様な専門性を要する繊細なテーマの典型だろう。

 英国取材は内山登紀夫医師(福島大教授)、大石剛一郎弁護士、堀江まゆみ白梅学園大教授、桝屋二郎医師(神奈川医療少年院)らと同行した。別々の専門領域のメンバーが同時に同じ取材をし、思考が固まらないうちに空港やホテルやタクシーの中で議論した。異職種チームで複眼的アプローチを試みたのである。

 触法の発達障害者に必要なのは刑罰ではなく自分を肯定できるケアであり、それが再発防止や治安維持にも有効であること。英国には死刑がなく、終身刑という概念が刑事政策の隅々に影響していること。共感や反省が苦手な発達障害者の特性を理解せず、被害者感情を盾に厳罰化を求めても真の安心は得られないこと。性急に結論を出そうとして発達障害の本質をはずしているメディアや司法が議論の熟成を阻害していること--などのヒントが浮かんだ。国内で調査研究を続け、報告したいと思う。
毎日新聞 2010年6月3日 0時39分


記事を見かけたのでコピーしておきます。
発達障害に関係するケースはスクールカウンセラーという立場でも数多く出会います。
発達障害に関係するケースで最も必要なことは、関係者がお互いに理解し会うことだと感じています。

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