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2009年10月

2009年10月19日 (月)

学校でのストレスマネジメント活動の必要性

「ストレスマネジメントとトラウマ」というブログで、日本テレビの「太田光の私が総理大臣になったら…秘書田中」の話題が取り上げられています。2009年10月9日放送の、長島一茂さんの提案したマニュフェスト「子ども手当を一部廃止し、学校の授業に“心のケア”の時間を作ります」を手がかりに、ストレスマネジメントの必要性について書かれています。ちなみに、審議結果は、「可決」で、ホームページには、一般視聴者の投票結果も掲載されていて、賛成56%という結果でした。

 私は、この番組を見ていないのが非常に残念ですが、「ストレスマネジメントとトラウマ」さんのおかげで、概要を知ることができました。そこでの記述から、ストレスマネジメントプログラムを実施することには、意外と反対意見もあるのだと、分かりました。学校にストレスマネジメントの授業が必要なことは、現場のスクールカウンセラーとしては、言うまでもないことだと思います。しかし、「甘やかし」のように捉えられてしまうことがあるようで、残念です。これの背景には、スクールカウンセラーなどの現場の実践家が、社会に対してきちんと説明を果たしていないという側面もあるような気がします。

 ストレスマネジメント活動の一般的な重要性については、「ストレスマネジメントとトラウマ」さんに書かれていますので、ここではそのことには、触れません。ここでは、少し特殊な視点、しかし、非常に重大な問題に関して、ストレスマネジメントの重要性について書いてみたいと思います。それは、「暴力」を予防するという点においてストレスマネジメントが重要な役割を果たすと予想されることです。

 スクールカウンセラーの実践活動の中で、他の子どもを殴るなどの身体的暴力をふるった児童生徒との関わることや、他者への性的暴力を働いた児童生徒にかかわることが、ここ数年多くなりました。暴力をふるった子ども達は、物事のとらえ方に偏りやゆがみが大きい、自分自身の感情に自分で気がついていない、などの傾向を持っているように思います。こういったことは、多くの研究で指摘されていることで、研究者や実践家には自明のことかもしれません。しかし、多くの人にはあまり知られていないことかもしれません。(身体的OR性的)暴力をふるった子どもたちに、大人が厳しくお説教をして、本人達も反省したとしても、同じ間違いを犯してしまうことから遠ざけることは意外と難しいように思います。物事のとらえ方の偏りやゆがみが修整され、自分自身の感情をきちんと感じ取り、コントロールするようになること、他者の気持ちを敏感に感じ取るようになることなどが、次の(身体的OR性的)暴力を防ぐためには非常に重要なのです。

 一方、性暴力を行った子どもたちへの治療教育の実践が日本でも成果を上げてきているようです。大阪大学の藤岡淳子さんを中心として、実践が積み重ねられています。藤岡淳子さんたちが行ってきた治療教育のプログラムについて書かれた文献が何冊か出版されています。それらを見ると、認知行動療法のアプローチを元にしたプログラムで、性的暴力に特化した内容ももちろん含まれていますが、全ての子どもたちにも、学んでほしい内容も含まれています。全ての子ども対するストレスマネジメントのプログラムが基礎編だとしたら、性的な内容や暴力に関連する内容に焦点を当てた応用編、つまり、性的な問題や性的な暴力、嗜癖の面に特に丁寧にアプローチしているのが、性暴力への治療教育プログラムだと言えると思います。

 いったん問題が生じてしまうと、それを良い方向へ向けていくには、多大なエネルギーや投資が必要ですが、問題が発生する間に対処することができれば、小さなエネルギーや投資で、良い方向へ進んでいくことができます。予防的な働きかけが重要なのです。暴力の問題も同じで、問題が発生してしまった後よりも、予防的にかかわる方が、少ないエネルギー少ない投資で効果を上げるはずです。

 こういったことから、ストレスマネジメントのプログラムは暴力を予防するのに役に立つのではないかと予想することができます。そして、もし少しでも効果を上げることができるなら、暴力の被害者を少なくすることができるという、広く社会的な利益にもつながるように思われます。


ちなみに、性暴力の治療教育に関連する文献を紹介します。どれも、非常に良い本です。手元に必要な本だと思います。
少し古いですが、概論的な内容もプログラムも書かれていて、役に立ちます。

最新の、ワークブックです。3冊のシリーズです。「ロードマップ」はもうすぐ出版されるようです。



藤岡淳子さんの著作ではありませんが、これも、有用なワークブックです。

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